その手の平は尻もつかめるさ

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“プロトタイピング ― 模型とつぶやき”を読んだ

藤村龍至の“プロトタイピング ― 模型とつぶやき”を読んだ.


これは建築設計に関する本で,プロトタイプの模型を作って,更にそれに改善を加えた模型を作って,またそれを繰り返して……という感じで,設計を完成形に持ち込むという手法が紹介されている (“超線形プロセス”という名前で紹介されている).
すべての過程のプロトタイプ模型の写真が,その時の思考 (試行) の流れと共に時系列順に掲載されていて豪華.考えの移ろいが模型写真の変化と共に見られるので面白い.プロトタイプの模型と一緒にその時の思考がキャプション的に載ってるのは Git のコミットログを彷彿とさせる.プロジェクトのコミットログを見返してみると結構面白いのだけれど,この本はそれと同種の面白さを提供しているように感じる.
また,そのプロセスに従って設計された建物の施工時や竣工後の写真も載っていて,プロトタイプから実際の成果物が導かれる様子は非常に興味をそそる.


前書きの部分に良い事が書いてあって,それは「ルールの一貫していないように見える部分を指摘する」だとか「新しい模型と1つ前の模型を比較して,改善点を見つけて,それを元に新しい模型を作る」だとか「(プロトタイピングをする過程で) ジャンプしない,枝分かれしない,後戻りしない」だとかで,これはソフトウェアの開発にも通じるものがある気がする.

「ルールの一貫していない部分を改善して,一貫性を持たせるようにする」というのは良い設計を実現するにあたってはもはや必須項目とも言えると思う.

「1つ前のリビジョンと現在のリビジョンを比較して新たな改善点を洗い出す作業」というのは今日のウェブサービスにおいては様々な計測手法によって実現可能になっている.あるいはソフトウェアの内部的な話に焦点を当てるとこれは「リファクタリング」と呼ばれる設計構造に起因する作業かもしれない.

「ジャンプしない,枝分かれしない,後戻りしない」というのはソフトウェア開発ではあまり見られない気がする (VCS の branch とか,revert とかはよく使われる) けれど,高速なプロトタイピングの過程ではこれは望ましい制約な気がする.


ものを作って,前と比較して,改善点を洗い出して,その改善点を反映した新しいものを作る.そしてそれをどんどん繰り返していく,という一連の作業はソフトウェア開発では割と一般的になってきている気がしているんだけれど,そうしたプロセスが建築という他分野でも行われている事が分かって面白かった.ソフトウェア開発と似通った手法を採っている分野というのは他にも結構あると思っていて,そうした異分野から学べる点というのは多いのではないかと感じた.


とりあえず,最初の何も無い所からシンプルなプロトタイプがボコッと現れて,それが写真を追うごとに洗練されていってスタイリッシュな最終形まで到達する,という流れを見るだけでも面白い本だったので良い.

殆ど写真がメインの本なので,読もうと思えば10分くらいで読めてお手軽.

たまにはソフトウェア以外に関する本を読みたいね,ということで買って読んだのだけれど,結局ソフトウェアの話題に結びつけてしまった……