その手の平は尻もつかめるさ

ギジュツ的な事をメーンで書く予定です

#yapcjapan YAPC::Kyoto 2023に行ってきた・喋ってきた

yapcjapan.org

2023年3月19日に開催されたYAPC::Kyoto 2023に参加してきました。もう2週間も前の話になるんですね......USに戻ってきてから色々あり、すっかりブログを書くのが遅くなってしまいました。

YAPC::Kyotoの様々な感想については「にゃんこ酒場.fm」で id:papixid:karupanerura さんら運営の方々と喋ったPodcastが公開されているので是非お聴きくださいませ!

nyanco-sakaba-fm.hatenablog.com

面白かったトーク

ジョブキューシステムFireworqのアーキテクチャ設計と運用時のベストプラクティス

id:tarao さんの発表。Fireworqが発表されたあたりって、スケーラビリティが高くなおかつ複数の言語から良い感じで使えるジョブキューのプロダクトについて「何使えば良いんだろうねえ」って感じで決定版がいまいち無かった記憶があり、当時はResqueとかSidekiqとかを使ってたような気がしています (一部は古来からのTheSchwartzとかもあった気も......)。AWS使ってる人たちはSQSを使ってたのかもしれないですが。
そんな中、実務に耐えうるジョブキューエンジンであるFireworqが出てきたタイミングで「オオ!」となったのを今も覚えています。アーキテクチャも先鋭的で、なおかつ、はてな内で実際に使われているというところにも感動したものです。
当時は自分もジョブキューエンジンを作ろうとしており、それは未完に終わったのですが *1、そういったパッションがあったことを思い出すセッションとなりました。

しかし、今はKafkaとかAmazon Kinesisとかを個人的には使っちゃいがちでして。ジョブキュー界隈もこの数年でこなれたんだな〜という感想も同時に抱きました。

ORM - Object-relational mapping

id:onk さんの発表。ORMについてパターン分類しつつ体系的に説明し、かつ既存のPerlプロジェクトに対して大きなギャップを生まない形でORMを導入していくという実践的な発表でした。
PofEAA等、ORMについて解説している書籍は数あれどなかなか骨太 (というか単純に文量がすごい、あとonkさんも軽く言ってましたが20年前の書籍なので歴史がある) なものが多いので人に勧めにくい! ので、このようにわかりやすくまとめてあるのは人に説明する時に助かってめっちゃ良かったです。
会場で「ORMがパフォーマンス悪いクエリ吐くと困らない?」と質問したのは僕で、

Perl の DB 周りのライブラリには基本的にどこで発行した SQL なのかをコメントで残す機能がある *5 ので、スロークエリの検知や集計さえできていれば発生した問題には対応できる。 また、集計や検知するためのサービスが現代では整っていて、自前で pt-query-digest 等で集計しなくても Performance Insight が教えてくれるので、頑張らなくても見つけられるんじゃないかと思っています。

今は移行直後なのでみんな SQL への脳内マッピングができる状態だけど、「ORM しか触ったことのない人」が増えた世界だと「発行される SQL を見てくれ!!」と言いたくなりそうですね。例えば Devel::KYTProf を入れて流れる SQL を眺めながら開発するよう働きかけるとか、それをやってもログだと眺める人が少ないのでブラウザ上にどうにかして表示するとかが必要になるかもしれません。

そもそも問題が発生しないようにするのは難しいよねー……。工夫はして防ぐけど、たまにやらかしが出うる、勝ち目の少ない戦いっぽいと思う。

https://onk.hatenablog.jp/entry/2023/03/27/003901

という回答をしていただき、これについては納得しました。とはいえ、自分としてはやはり多段JOINだのなんだのと複雑なクエリをORMだけで組ませようとすると理解不能かつパフォーマンスの悪いクエリが得てして吐かれることがある気がしてて、そういうものについてはSQLを手書きしつつオブジェクトにマッピングだけさせる、というハイブリッド戦略を採ることが多いかなあ......単に生SQLが好きという嗜好の話かもしれない。とはいえ「どれくらいの複雑性からそうするのか?」と問われるとそのへん感覚でやってるので、そのへんもうちょっと自分の中で言語化する必要があるのかもしれないなと思いました。

キーノート

id:onishiさんのキーノート。エモすぎる。はてなの社史からご本人のキャリアをなぞっての大河という感じで本当に良かったです。「なにをやるにも遅すぎるということはない」本当に良い言葉ですね。
この発表についてつべこべ言うのは野暮だと思うので、アーカイブ映像が公開されたら見ましょう。Must Watchという感じですね。

それはそうと懇親会でも言いましたが、スライドの発表メモに「ここで感極まる」というト書きをするのは反則ですよ *2

自分のトーク

恐れ多くもゲストとして招待していただき発表することとなりました。シアトルから駆け付けての発表で、人生史上初の来日公演と相成りました。

docs.google.com

一般に「技術的負債」だの「レガシーコード」だのと呼ばれがちな「みなしごソフトウェア」について、あえて露悪的に「廃墟」と称すことにし「それは技術的負債ではない、このままではいけない、なんとかしなければならない、なんとかするぞ」という意気込みを表明するとともに実際になんとかして生き延びるための技法について散りばめた発表となっています。ここ数年はこのようなソフトウェアをやりまくる請負人として活動していたので、その間に得た知見をまとめた集大成となったのではないかと思います。中身としては「レガシーソフトウェア改善ガイド」や「レガシーコード改善ガイド」に書かれている内容も多く含まれてはいるわけですが......

質疑応答としては、

といったものが印象に残っており、一般に「廃墟をなんとかする」という活動は「停滞」に見えてしまいがちですよね。実際には停滞ではなく継続的な改善活動であり、ひいては事業を持続させるために必要な行動であると言えるはずなのですが、エンジニアリング活動の外から見ているとそう理解してもらうには一定のハードルがあるというか。結局、経営とちゃんとコミュニケーションして信頼関係を築いて理解してもらう、かつFour Keysのような実績を示して実測値によって理解してもらう、という営みが必要なのではないか、というのがここ最近の思いです。


さて、このトークの裏テーマは「個人技」でした。それが廃墟活動であるかどうかを問わず、ソフトウェアの開発や運用をするにあたっては「個の力」だけでは早晩限界が来てしまうため、チームで取り組んでいく必要があるというのは今さら言うまでも無いとは思います。一方、個人技が必要ではないかというとそうではないと思っていて「圧倒的な個人技」が不利な状況を打開するということは少なからずあると思っており、特に「廃墟をなんとかする」などといった馬力を求められるシチュエーションでは非常に価値があるものだと思っています。
ソフトウェアエンジニアリングという業界が成熟してきている証左だとは思いますが、ここ最近はチーム開発だとか組織運営だとかそういったトピックが巷で多く見られるようになりました。そういった状況から「個の力」が若干軽視されているのではないかという懸念があり、このトークでは個人技の価値や重要性、そしてその限界についての話題を意識的に盛り込みました。ぶっちゃけて言えば個人がその技を限界までプッシュしてこそチームでの活動が強化されるのであって、極限まで求めた個人技と個人技のせめぎあい、そしてその技の協調によって形成されるチームこそが最強のチームなのではないかという意識を持っており、そうありたいという思いが込められています。


それはそうとid:malaさんから「『廃墟をそのまま売り飛ばす』という解法が欠けているよ」と発表後に指摘され、なるほどとなりました。Good Point。ちなみに僕はそれまだやったことないです。


またLTもやりました。LTの資料はこちらです。

docs.google.com

github.com

^ を実装した時の話です。これを実装した時、この資料に書かれていたPrefix TreeによるIP Routing Tableのマッチングアルゴリズム自力で編み出しており「うおおおお、やったー!!!」と万能感に包まれていたものですが、よくよく調べてみると既に存在する応用領域であり若干ガッカリしたという裏話があります。良く事前調査をしよう!!!

その他雑感

久々のオフラインカンファレンスで、久々に会う人たちと色々なお話ができて本当に良かったです。トークそっちのけで廊下で近況報告だったり、困り事の相談だったり、新しい技術の話だったりそういうことを沢山できて本当に楽しかったです。
また、発表中にリアルタイムで刺し込まれる質問 (a.k.a dan the question) があるのもオフラインならではですね。これも非常に面白かったです!
あとid:sfujiwaraさんに辻斬りのように投げていたpull requestについてのディスカッションもface to faceでできて良かったです。いつもお世話になっております〜みたいな感じで使っているソフトウェアの感想・感謝を直接伝えられるというのも良いですね。

また、id:nekokakさんの発表やid:onishiさんの発表など、キャリアに関する発表を見て考えが新たになったというのもあります。僕ももはや齢32、無茶が効く年齢はとうに過ぎ去り、いつまでこのような腕力にモノを言わせた暮らしができるのかとふと心配になることもあります。懇親会で誰かに言われた「暴力装置のようなキャリアにはいずれ限界が来る」という言葉には冷や水を浴びせかけられたような気持ちになりました。そういったキャリアに対する漠然とした不安のようなものは確かにあり、一方で腕力は失いたくはない。そんな折にYAPCには先輩エンジニアが多く参加しておられ、色々とキャリア相談みたいなことが懇親会等でできたのは非常に良かったです。しかしすっかり僕も歳を取った......




というわけで、YAPC::Kyoto 2023たいへん楽しかったです! YAPCを運営してくださった皆様、参加者の皆様ありがとうございます!! 今後のYAPC::Japanも楽しみにしています。


ちなみにコレは発表前に飲んだ、会場前の自動販売機で売ってた100円のエナジードリンクです。コイツに僕は助けられたと言っても過言ではありません。しかし100円のエナジードリンクってマジですごいな。


KAYACさんが配ってたおみくじは "undef" でした。トーク直前にこれ引いて若干不安になるという一幕。面白かったです!


飲酒

無茶な飲酒もYAPCの華。

*1:Kafkaが台頭してきたので

*2:ジョークです